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編み図の著作権等について(見解)~2

皆さん、こんにちは。
編み図の著作権については皆さんやはり並々ならぬ関心がおありのようで、ブログ村から多くのアクセスをいただきました。またTwitterでご感想をお寄せいただいた方々、ファボっていただいた皆さまも、ありがとうございました。

さて、前回の投稿では、編み物本は編集著作物として著作権保護の対象となること、ただし著作権保護の内容は複製の禁止に限られることを述べました。複製の禁止は結構ガチガチなものであることも……。

では「編み図を編んだ作品を販売する」という問題はどうでしょうか?
書籍となっている編み方の表現には著作権が発生しうるとしても-本のレイアウトは「アイデア」なので著作権の対象とはならないそうです。アイデアと表現の線引きはとても難しいようです-、判決にもあるように「編み方自体」には著作権がありません。また、作家さんが発表された編み方に従って編んだ皆さんの作品には作家さんの「著作権」は及びません。
しかし、デザイナーの方が考案したアイデア、デザインおよび編み方は無制限に利用してよいでしょうか。
知的財産法はそれが工業所有権であれ著作権であれ、文化、経済の発展に寄与する創造的な人間活動に対し、インセンティブ(経済的見返り)を与えるのが目的です。しかし、編み物を始め、手芸分野の個人作家の作品の(作り方の)保護については現在の日本の知財法では空隙がある。法律による保護が欲しければ「実用新案登録しないほうが悪い」という考えもありますが、個人作家が自分の作品の作り方を登録するかというと、実際問題としてほぼ不可能でしょう。手続きには多額の費用がかかります(http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/hyou.htm)ので、作品全部を登録するのは夢物語です。

手前味噌になって申し訳ありませんが、当店で販売している海外パターンには利用許諾条件が明記されています。皆さんもご存知の「私的使用の範囲内でご利用下さい」という一文ですね。デザイナーさんによっては、さらに一歩踏み込んで「パターンを編んだ作品の営利目的での利用を禁じます」と明文化しています。また、この利用許諾条件は当店では利用規約にも定めてありますが、「お客様がパターンをお買い上げいただく際には利用規約に同意したもの」とみなさせていただくことになっており、これは言わばお客様との契約条件でもあります(https://atelier-knits.com/terms-and-conditions/)。編み方というものが法律では保護されていない可能性があるので、このような許諾条件が定めてあるのだと思います。
思うに、編み図の「編み方」が著作権で保護されているように感じるのは、コピーライト表記(複写禁止)とこの利用許諾条件が言葉は悪いですが、常に「一緒くた」に書かれているからだと思うのです。本来は「複製権」と「利用許諾条件」と言う全く異なるものであるのに。

さて、百歩譲って(笑)日本の編み「図」一点一点に著作権が発生しないとしても、皆さんがお買い上げになる書籍にも、このような文面はありますね。
今手元にある嶋田俊之先生の『手編みのてぶくろ』(文化出版局、2011年)の奥付けには次のように記されています。「本書で紹介した作品の全部または一部を商品化、複製頒布、およびコンクールなどの応募作品として出品することは禁じられています」
「毛糸だま」(Vol.148、日本ヴォーグ社、2010年)にも、「本誌に掲載の作品を複製して販売(店頭、ネットオークション等)することは禁止されています。手づくりを楽しむためにのみご利用下さい」とあります。
これらはすべて利用許諾条件と解釈することが出来ると思います。
編み物本、広くはハンドメイド本という、デザインと作り方という他人のアイデアが記載された特殊な書籍を購入されるときには、皆さんはこの利用条件に同意した、そのようなライセンス契約を結んだ上で購入されているのだと考えることが出来ると思います。ライセンス契約はソフトウェアの使用などでもありますね。ソフトウェアは通常購入後に「使用許諾条件」が提示され、同意しない場合は利用できませんが、編み物本の場合は営利利用禁止条件は本屋で書籍を手に取ればわかるし、手芸をされる方ならこれが慣習的に記載されているのはご存知のはずです。
先ほどのレシピ本に話を戻すと、レシピの本にコピーライト表示があっても営利利用が禁止と記されていないのは、おそらくレシピを見て料理を作るような人間に料理を業として営むことが出来ないからでしょう(笑)。ただし、ハンドメイドはうまい人が作ったものは売れる可能性があるので、ことを難しくしています。

編み図は第1回の冒頭に述べたとおり、「デザイン」と「編み方」、およびその「表現」の微妙なグレーゾーンに位置しています。
でもこのように考えてみてください。
作家さんが発表される編み図が存在しなかったらどうでしょうか。michiyoさんや三國万里子さん、またはスティーヴン・ウェストさんがいなかったら皆さんの編み物ライフはつまらないものになると思いませんか?デザイナーの方のアイデアを拝借させていただいていると考えたら、彼らが(または日本の書籍の場合は編集者が代理として)「禁止」と言っている利用法に背いて利用することは出来ないと思います。このような条件を守るかどうかは、やはりモラルの問題になってくるでしょう。泥棒はダメと法律で定められていてもやってしまう人がいるように。たとえは(あえて)悪いですけれど。
ハンドメイド品でお金を稼ぎたいのであれば、やはり自分でデザインも作り方も考えた作品を売るのが、何人にも非難されない最良の方法です。デザインや作り方を考えるのは楽しい作業です。でも、良いものを「創る」のは時間も労力もかかります。皆さんも作ったものを売って収入源としたいのであれば、一度ご自分でデザインをして、作品の裏にある苦労も知っていただきたいと思います。

最後に、ここまでで終わりにしようと思っていたのですが、新たな、かつ重大と思われる知見を得たので、皆さんと共有しておきたいと思います。
編み図の営利利用禁止は上記の利用許諾条件の受諾という契約の観点から説明できるかと思ったのですが、著作権や不正競争防止法などの知的財産関連法での保護が出来ないものの侵害は、民法709条に定める「不法行為」に基づく救済が可能なようです。709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」というもので、知財法などの法律で認められている権利だけでなく、「権利として認められていないもの、例えば老舗ののれんなど、他人の利益を侵害した場合にも不法行為は成立する」のだそうです(『図解による法律用語辞典』自由国民社、2004年)。つまり、「フリーライド(ただ乗り)」に当たる行為ですね。
例えば、ある企業が別の企業が発売しているデータベースの内容をコピーし、データベースとして販売したところ、データベース自体には著作物性が認められなかったものの、その行為は「公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害する」として損害賠償が認められました(東京地方裁判所平成14年3月28日判例時報1793号)。また、著作物性の認められていない新聞の見出しを某プロバイダがホームページのニュース見出しとして無断で営利目的で使用したところ、この行為は「社会的に許容された限度を超えたもの」であるとされ、新聞社見出しは「相応の苦労・工夫により作成されたもの」であって「見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情」があり、「法的保護に値する利益となり得るものというべきである」という判決が出ています(平成17年10月6日知財高裁判決)。
これは編み図にそのまま当てはまりそうですね。編み図一点一点は著作物としての保護を受けられないとしても、デザイナーさんたちの「相応の苦労・工夫により作成されたもの」であり、出版されていること自体に経済的価値を有することが認められますし、「法的保護に値する利益となり得る」でしょう。編み図の営利利用は「財産上の損害」にあたり、名を騙れば「精神的損害」を与える可能性があります。
そのようなわけで、誰もが「なんとなくダメなんじゃないか」と思っていたことは、不法行為となる可能性がありそうです。ハンドメイド作品の販売サイトの利用規約だったら「他人の権利を侵害する又はその恐れのある作品」に当たるでしょう(tetoteより)。
無断の営利利用が発覚してデザイナーさんに実際に訴えられるかはわかりませんが、このような法的報復措置もあり得るのです。またハンドメイドのマーケットサイトに通告されれば除名となるでしょう。

なんだか怖い話になってしまいましたが、人倫にもとる行為は法的処罰の対象となるというのは救いととるべきなのか、はたまたそのような人間の性を悲しむべきなのか、フクザツな思いとともにここで筆(?)を置かせていただきます。
最後までおつき合いいただきありがとうございました。
次回はもっと軽い話題にします^^。
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